ものづくりという言葉が使われ出したのは、ここ20年ほどのことです。今の小学生がなりたい職業のひとつは「職人」です。実はこれ、世界的にみてとても珍しいことなのです。海外では、ホワイトカラーが成功者であるという認識が、日本とは比べものにならないくらい常識的な考え方になっています。
 といっても、戦後の日本で、ずっと技術者や職人がポジティブなイメージで捕らえられていたわけではありません。バブルのころには、現場作業や技能系の仕事は、「きつい、汚い、危険」な3Kなどとも呼ばれ、ブルーカラーは敬遠される職業でした。それがふたたび脚光を浴びるようになったのは、もともと日本人には、職人気質ともいうべきものがあり、そして技術力の高さに対する尊敬があったからです。資源に乏しい日本で、職人を尊敬する精神が大事にされるのは当たり前でもあります。戦後の日本が、世界に類を見ない経済成長を成し遂げた理由は、ものづくりあってのことです。バブル景気では、そうした精神が軽んじられ、ものを作り出すこと、それよりも投資してお金を増やすことが賢く、優れた人間の仕事だと思われるようになったのです。もちろんバブル崩壊とともに、そうした考えは見直されるようになりました。バブル経済であれば、そもそも投資の下手な人でも、そこそこ儲けることができた時代です。バブルが終われば、投資で利殖、そんな夢を見るのは難しく、堅実な生き方が尊重されるようになったからです。今の日本は、長いデフレからようやく脱却の兆しが見え始めたばかり。再び、日本が復活するために必要なもののひとつは、確実にものづくりの力です。これから日本がどうなっていくのか、それを知る手がかりとして、ものづくりについて、もう一度考えてみたいと思います。

↑ PAGE TOP