トヨタ生産方式に学ぶものづくり

 トヨタ生産方式という日本生まれの製造思想は、今や世界で使われるようになりました。トヨタ生産方式という言葉だけを聞くと、マニュアル化、システム化された製造工程という印象かも知れませんが、このトヨタ生産方式はそれだけで、その理念や思想、ようはトヨタらしさをも表しています。

 今では世界最大手の自動車メーカーとなったトヨタは、もちろん順風満帆に成長し続けてきたわけではありません。最も経営的に苦しかった、というよりはほとんど倒産目前のトヨタ。そんな昭和20年代にトヨタの社長になったのが、豊田英二です。彼はこう言っています。「いかに立派な社是・社訓でも、これがひとつの社風になるまで年期を積み上げないとものにならない。そして、社風なき会社からは、立派な人材や製品は生まれてこない。」と。豊田英二は、技術者でした。戦後の日本は、外国に追いつき追い越せ、と躍起になっていました。ですが、実際には海外メーカーの技術を導入し、最先端の技術を手に入れようと必死になっている企業も多かったのです。そんな中で、トヨタは自前の技術にこだわります。そして自前で開発した技術で作り上げたのが、トヨタクラウンでした。トヨタクラウンは今もって代表的な日本車のひとつであり続けています。

 ジャストインタイム生産システム、もしくはカンバン方式と呼ばれる「必要な物を、必要な時に、必要な量だけ生産する」ことが、一般的に知られているトヨタ生産方式です。今となっては製造業にとって、無駄な在庫を持たない、仕掛品を減らすことは当たり前のことになりましたが、トヨタ生産システムを作り上げるまでは、そもそも自動車社会そのものが必要でした。日本全国にディーラーがあり、販売と点検を誰もが近くで受けられること。任意保険を普及させ、万が一の自体に備えることが容易な社会。もっといえば、ガソリンスタンドやそもそも道路整備も必要です。そうした環境が整ってようやく、大量生産とそのコスト削減のためのジャストインタイム生産システムが活きることになります。今では当たり前の用に存在するサービスですが、トヨタは、自動車社会そのものを作り上げることにも貢献したのです。必要な物を、必要な時に、必要な量だけ生産する、そのためにはまず、それを必要とする社会が必要です。トヨタは、自動車を作るだけではなく、物を必要とする環境も作ることで、必要な物の数を増やし、大量生産のお手本ともなるシステムを作り上げました。

 トヨタ生産方式に学ぶべきものは、その合理性やシステムの優秀さだけではありません。いかに必要とされる物にしていくのか、それもものづくりには欠かせない視点なのです。

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